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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)1757号 判決 1977年11月28日

主文

被告会社を罰金一七、〇〇〇万円に、被告人を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社はK区M町に本店を置き、建設機械の賃貸及び運送業を目的とする資本金四、九九〇万円の株式会社であり、被告人は同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、賃貸料収入等の一部除外及び架空経費の計上等の方法により所得を秘匿したうえ

第一昭和四八年八月一日から同四九年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二二九、一八二、六六五円あつたにもかかわらず、同四九年九月三〇日、所轄税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九九、二七九、〇〇七円でこれに対する法人税額が三七、七三八、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額八九、六八三、二〇〇円と右申告税額との差額五一、九四四、九〇〇円を免れ

第二昭和四九年八月一日から同五〇年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四四、一四一、〇四六円あつたにもかかわらず、同五〇年九月二七日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三、九八三、五九二円でこれに対する法人税額が四、一一六、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六、一七九、八〇〇円と右申告税額との差額一二、〇六三、二〇〇円を免れ、

たものである。

(いわゆる認定役員貸付利息・認定役員報酬勘定に対する当裁判所の判断)

(一)  検察官は、被告会社の資金が被告人により個人的に使用された所為につき、被告会社からの被告人に対する金銭の貸付けと認定できるとし、被告会社の収入除外等によつて得た資金が代表者たる被告人個人の資金と混合一体となつているため、個人の収支状況、財産増加状況を確定することにより、被告会社との貸借勘定(代表者勘定)を確定して、期首代表者勘定残高を算定し、昭和四九年七月期につき、その金額計二〇、六六六、六〇一円に対する貸付利息一〇パーセント分二、〇六六、六六〇円を認定し、昭和五〇年七月期につき、同じく五九、六四三、七〇二円に対する同率による五、九六四、三七〇円を各認定したうえ、右各金額を逋脱したものとなし、また他面、被告人に対する右各認定役員貸付利息額を被告人に対する同期における各認定役員報酬として損金に算入する旨主張する。

(二)  しかし、被告人は、当公判廷において被告会社との間における本件金銭消費貸借契約の存在につき「そういうとり決めなどはしておりません。」と供述しており、しかして、簿外とした金の中から被告人個人で恣ままに使つたということなのか、との問に対しては、これを肯定したうえで、それは個人の生活費とか、保険料などに使つたと述べている。また、会社の資金を費消したことにつき、別に会社との間に契約書も作らず、他の役員の了承も何ら得ておらず、勿論、取締役会議事録にも記載していないし、更に、個人的に費消している途中の段階では、自分自身においてすら一体どの位の金額を使つたかということもわかつていなかつた旨供述している。

ところで、貸付金とされた金額についての利息が一割となつていることについて、これは被告人が決めたのかとの問に対し、被告人は「いいえ違います。」と明白に否定しており、本件貸付金とされた消費貸借契約そのものについて「それは事件が発覚後、国税局の係官からこれは会社の金だから貸付金ということにしろ、金利も一割ということにしろといわれたので、そのようにしたのではないか。」との問に対して被告人は明白に『はい、そうです。それで言われたとおりに処理したのです。』と供述している。また、昭和四九年分の修正申告書を提出した際、その裏面に給与として『認定利息分』と記載されていることについても、これは国税局の係官の指示で書いたものであると供述している。

しかして、被告人は会社の資産が私個人の用途に使われたことは間違いありませんと供述したうえで、それは一時的な借入れのつもりでした、最終的には返済するつもりでした、役員としてのボーナスという意味で使つたつもりはなく、この分は精算するつもりでした、とも供述している。しかしながら、この点についても被告人は、いつまでに返すつもりだつたのかとの問に対しては「時期は決めておりませんでしたが、会社の経営状態が悪くなれば柏などにある土地を売つて返そうという気持でおりました。」と供述している。

また、被告人は、被告人自身の個人の金を会社のために使つたことはあるが、そういう分についても会社との間で金銭消費貸借契約をとり交していないし、そういう処理もしていないと供述している。

なお、ほかに正式に被告人が被告会社から借入れした借入金三、二〇〇万円があるが、これについては、「私が会社から借入れたものとして会社の帳簿に公表処理しており、この貸付金については、私が会社から金を借りる際に金利を決めたうえで借りている。」と供述し、この三、二〇〇万円の借入金の関係は「被告会社が私の個人会社という頭がありましたので取締役会の決議等は経ておりません。」と供述している。

しかして、収税官吏作成の「個人収支・資産負債調査書」によれば、被告会社の収入除外等によつて得た資金と、代表者たる被告人およびその家族の個人収入によつて得た資金とが混合一体となつて運用財産が形成されているので、個人の収支状況、財産増加状況を算定することにより、被告会社の貸借勘定(代表者勘定)を確定するため、当期における個人収支資産負債計算をなし、差引可処分所得を計上したうえで財産との差額を計算し、昭和四九年七月期については、前期分の財産との差額二〇、六六六、六〇一円が翌期首に繰越されていると認定して、この金額を右昭和四九年七月期分における貸付金と認定し、更に昭和五〇年七月期については、前期分における財産の差額三八、九七七、一〇一円に、前々期分の右二〇、六六六、六〇一円が繰越されているものと認定して合算した金額五九、六四三、七〇二円を当期における期首の貸付金と認定計算した事実が認められる。更に、同調査書によれば、被告会社が被告人に対し、公表の貸付金として昭和四七年八月に三、二〇〇万円の貸付けをなしたこと、その貸付利息を被告人から徴していたことが認められる。

また、被告人は捜査段階においても収入除外等で得た金は銀行の仮名、無記名預金にしたり、ゴルフ会員権の購入や、兄弟各人の名義の定期積金をしたり、知人に貸付けたり、また私の個人財産と一緒になつてしまつたものもあると供述している。被告会社の経理担当者も、社内で収入除外や架空経費の計上について知つていたのは社長と私だけであり、他の人は知らなかつたと思うと供述し、水増しによる不正な経費等の支出金は総べて社長に渡しておりましたと供述している。

(三)  右各証拠を総合すれば、本件における金銭消費貸借契約による貸付金の存在は全く架空のものであつて、被告人が被告会社の簿外資産を勝手に費消したことにつき、本件脱税が発覚した後の事後の処理として、国税局係官の指示に基づいて、年一割の利率による貸付金という形式をとつたに過ぎなかつた事実を認めることができる。

ところで検察官は、被告人が会社資金を使用した所為につき「一時借りておくという気持であり、のちに返えすつもりでいた。」という被告人の意思を尊重し、被告会社から被告人に対する金銭の貸付けと認定したものである旨主張する。

確かに、被告人は当公判廷において、一時的な借入れのつもりであつた、最終的には返済するつもりであつたと供述しているが、しかしながら、返済の期限も別に定めてはなく、借用証書もなく、他の役員も、このことを殆んど知らず、そのうえ、被告人自身においてすら一体どの位の金を使つていたかも判つていなかつた旨供述しているのである。加うるに本件は、会社資金が個人資産と混入され、そのため、本件脱税の発覚後、前述したように、収税官吏が、被告人個人の収支・資産負債調査によつて被告会社の各期首における代表者勘定として一応の金額を算出し、それを貸付金なりと擬制したに過ぎないのである。

被告人は、会社の経営状態が悪くなれば自己の土地を売つて返そうという気持でおつたと供述しているが、このことは、裏返していえば、会社の経営が悪化しない限り返済しないともとれるし、それは、巷間にいう、いわゆる“出世払”ともみ得るものであるから、そうだとすれば貸付金債権の成立には疑問がある。しかのみならず、前述の被告人の後に返すつもりでいた旨の供述は、単に被告人の内心の意思を述べたにとどまるものであつて、被告会社自身においては、右貸付金が存在するものとして一〇パーセントの利率による利息を請求するという意思は何等外部に表示されてはいないのである。換言すれば、被告会社において、当該事業年度内において被告人に対し当該貸付利息を請求するという意思表示が全くなされていないのである。

検察官はこの点につき、被告会社と被告人との間に金銭消費貸借契約書は交わされてなく、貸付についての取締役会も開かれていないし、被告人が他の取締役の同意を求めたという事実もないのであるが、被告会社のような個人の色彩の強いいわゆるワンマン会社では、代表取締役である被告人が借入の意思をもつて被告人会社の資金を使えば、その時点で、被告会社と被告人間に金銭消費貸借契約が成立したとみることが、小企業の実体に則した解釈として是認されるものと考える旨主張する。

しかしながら、消費貸借契約が成立したかどうかは、事実認定の問題である。それは、代表者たる被告人が被告会社の資金を使用したことにつき、契約(意思表示)があつたか否か、あるとすれば、契約の日時、金利の有無、或いは契約の存在を裏付けるところの返済期限は何時か、担保の有無、更に、被告人において、幾何の金額を借入れたものとして認識していたか、他面、被告会社としても被告人に対し当該事業年度中に幾何の金額を貸付けていたという管理がなされていたか等の事実を認定することによつて、はじめて、貸付金の存在を認定できるのである。しかるに、本件は叙上認定のように貸付金の存在を認めるに足る証拠は他に存しない。従つて、被告人が被告会社の資金を勝手に費消したことを以て直ちに金銭消費貸借が成立したとみる検察官の主張は失当である。

(四)  これについて検察官は、仮に右が貸付金でないとしても、会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従う(商法第二五四条第三項)ところ、受任者が委任者に引渡すべき金額又はその利益の為に用いるべき金額を自己の為に費消したときは、その費消した日以後の利息の支払いを要し、なお損害あるときはその賠償の責任を問われる(民法第六四七条)のであるから、本件においても被告人が被告会社の資金を自己の為に費消したことは明らかであるので 利息の支払義務があり、その場合、被告人と被告会社との関係は商人間の関係と認められるので利率年六分で算出した利息を支払わなければならない(商法第五一四条)。又、委任の規定を持ち出す迄もなく不法行為としての損害賠償請求権の存在を考えてみても、被告会社では銀行からの借入金に利息を支払つており、又貸付金について利息を徴していたことは公表の営業報告書からも認められるところ、本件の場合、被告会社としては、被告人が使用した分に相当する資金を生かせず、それだけの資金を借入れすれば利息を支払い、逆に貸付けしていれば利息を徴することができたものであるのに対し、被告人は無利息で被告会社の資金を使用するという利益を享受していたものであるので、商事利息相当分を負担するのが一般経済界の実状にそつた当然の処置と言うべきである旨主張する。

確かに被告人は、被告会社の代表取締役として、両者の関係は委任に関する規定に伴う(商法第二五四条第三項)ものであり、受任者が委任者に引渡すべき金額又はその利益の為に用ゆべき金額を自己の為に費消したときは、その消費したる日以後の利息を支払うことを要する旨法律は規定している(民法第六四七条)が、しかしながら、同規定が存在することのみを以て、被告会社に対し、被告人への貸付金についての利息が生じていることになるから、右貸付利息相当額の法人所得が当然に生じ、それを被告会社において逋脱所得を構成し得ると解することは、とうていできないといわねばならない。

けだし、叙上認定のように、被告会社は被告人に対して当該事業年度において、如何なる名目においても、何等金員を請求する意思を外部に明白に表示してはいないし、当該金額につき、被告会社において担税力を認めうる程度にその利益を享受しているという客観的事情を確実に識別しうる程現実に支配管理している事実を認めることができないので、従つて、法人税法上の所得概念を決定する要素たる権利の確定、収益の実現があつたとは、とうていいえないからである。たとえ法律に規定があるからといつて、このことのみを以て直ちに法人税法上の所得が被告会社に生ずるとはいえないのである。

しかも、被告人自身においても、叙上認定のとおり、当公判廷において、一〇パーセント相当額の利息分については、自己が決めたものではなく、本件脱税発覚後、国税局係官の指示によつて事後の処理として修正申告をしたものであると供述しているところからうかがわれるように、明らかに、右利息相当額部分については、法人税の逋脱の意図のもとに、ことさらに過少の申告をしたものでないことも外形上からも明白であるから、従つて、その部分については故意は推認されないし、逋脱の故意を欠くといわなければならず、よつて、当該金額の部分については偽りその他不正の行為による法人税を免れたとはいえないのである。

(五)  なお、検察官は、前述したように、現実に被告会社が銀行からの借入金については利息を支払つているし、公表の貸付金につき利息を徴しており、被告会社としては被告人が使用した分を生かせず、それだけの資金を借入れすれば利息の支払い、逆に他人に貸付ければ利息を徴することができたものであるのに対し、被告人が無利息で被告会社の資金を使用するという経済的利益を享受していたものであるから、商事利息相当分を被告人が負担するのが経済界の実状にそつた当然の処置であると主張しているが、しかしながら、右の考え方は、つきつめると、税法における行政処分の対象としての、いわゆる租税回避行為と、刑事犯の対象となる租税逋脱行為との区別を混同することになる虞れがあるといわねばならない。

おもうに、法人が会社の役員をして法人の資金を無利息で使用させることは、法人税法第二二条第二項の無償による役務の提供に係る収益の発生があるとして益金の額に算入することも考えられるし、或いは、右の行為を経済的実質的に観察すれば、純経済人の行為として著しく異常、不合理、不自然であり、法人税の負担を不当に減少させる結果となるからとして、税法上、法人の当該行為を同族会社の行為計算否認の規定(法人税法第一三二条)によつて否認することも考えられる。

しかしながら、先ず法人税法第二二条第二項の規定の適用については、本件は後述するように、被告人個人が被告会社の資金を独断で費消した個人の行為であつて被告会社の行為ではないので、同条同項の適用はない。

次に法人税法第一三二条の問題について考えてみるに、これは、納税者の選択した行為計算が実在し、私法的にも有効なものであるにもかかわらず、租税回避の防止という見地から、租税行政上は、課税行政庁が擬制したところの、検察官の説くように一般経済界の実状にそつた通常のあるべき姿を想定して、この想定された別の法律関係に税法を適用しようとするものである。

しかしながら、これは飽く迄も、納税者の行為が当事者の真意にもとづく行為であつて、私法上は適法有効であることを前提として、租税回避を防止するために税法上否認する行政上の措置(更正・決定処分)に過ぎないのである。

しかるに、租税刑事法の対象となる租税逋脱行為は、これとは異なつて、当事者の真意にもとづかない仮装行為であつて、それは逋脱の意図をもつて、当事者においてなした行為につき、そこに事実を偽り虚構する点に違法性を帯びるので、偽りその他不正の行為と認めて租税逋脱行為を構成することになるのである。

従つて、両者はその本質を異にする。租税刑事犯においては、その本質上、法人税法第一三二条の適用は許されず、偽りその他不正の行為には、法人税法第一三二条の適用による場合は含まれないと解するのが相当である。

しかして、検察官の右主張は、要するに、被告会社は他からの借入金については利息を支払つており、被告人は無利息で被告会社の資金を使用するという経済的利益を享受していたものであるから、被告人に利息相当分を負担させるようにし、また、被告会社に対しても、右利息相当分の収益が発生したと認定するのが法人としての純経済人の行動にかない、一般経済界の実状にそう処置であるという考え方に究極のところ尽きることになるものとおもわれる。被告会社の役員に対する会社資産の無償貸付があるとすれば、これを経済的実質的にみれば、被告会社が役員に金銭を無償で貸付けて利息相当額の経済的利益を与えたものと経済的効果は同一であることから、租税行政上の処置(更正・決定処分)としては、かかる無償の貸付は、経済的合理人としては著しく異常不合理であつて、法人税の負担を不当に減少することになる、いわゆる租税回避行為であるとして、「認定」の名のもとに、法人の利息不徴収行為の計算を否認し、存在しない取引行為の計算をあるものとして擬制し、通常の利率による利息を認定することはあるが、しかし、かかる意味の、いわゆる認定利息を逋脱所得として構成することは租税刑事犯においては許されず、それは行政処分(更正・決定処分)の問題であることは既に述べたところである。

なお、法人税法第二二条第二項による「無償による役務の提供に係る収益」の規定に基づき、法人の第三者に対する無利息の貸付金債権にかかる経済的利益の供与として利息を認定し収益として益金に算入することはあるが、本件は、叙上認定のとおり、被告人が独断で被告会社の資金を費消した被告人個人の行為と認められ、被告会社の行為ではない。従つて、法人による無利息の金銭貸付ではないから、同条同項の無償による役務の提供にもあたらないことになるため、被告会社に利息相当額の収益も生じない。

(六)  次に、検察官は右役員認定利息に相当する金員を認定役員報酬として損金に計上しうる旨主張する。

しかしながら、法人が役員に対し金員を貸付けたという法的事実がなければ、利息相当額の経済的利益を供与したこととはならないし、しかのみならず、役員報酬(法人税法第三四条第二項)と役員賞与(同法第三五条第四項)との区別は、形式的には、その給与の支給が定期的か、または臨時的かによる形式的基準のほかに、実質的には、あらかじめ役員の業務執行の対価として定めてあるかどうかという報酬性・対価性という実質的基準の双方を具備するか否かによつて区別し判定すべきものと解すべきである。しかるところ、本件は、叙上認定のとおり、金員の費消自体において定期的ではなく臨時的であることは明らかであつて、しかも、あらかじめ業務執行の対価として、それが定められているものとも認められないから、結局、利息相当額の経済的利益は勿論のこと、費消した金員のすべてが役員報酬とならないことも明らかである。

この点につき検察官は、認定役員報酬を計上することについては、支給の定期性に疑問もないではないが、「期首」の借入金に対する利息分を報酬とするものであるので、毎月一定額の利息分の受領とみれば定期性を認めることは可能である旨主張する。

しかしながら、「期首」の借入金を擬制すること自体において失当であるのみならず、被告人の費消は毎月一定していないし、毎月一定額の利息相当額にかかる経済的利益を、当該事業年度において定期的に支給していたわけでもないから、役員報酬とはならないといわねばならない。いわゆる認定の名のもとに存在しない取引行為を在るものとして擬制することは、前述したように、法人税法第一三二条の規定によらざる限り許されないし、租税刑事犯においては、その本質上、同条の適用は許されないのである。

(七)  しかして、他に本件において役員に対する貸付金の存在ないし貸付利息の発生を認めるべき証拠は存しないし、また、被告会社に認定利息相当分の所得の発生を認めるべき証拠もない。

そうだとすると、右の存在することを前提としての役員報酬の発生することもないことは明らかである。

かえつて、本件は、被告人が被告会社の代表取締役たる役員であつて、しかも、被告会社に帰属すべき会社資産を自由に何時でも自己のために独断で費消したというのであるから、そのことは、費消した金額自体は、税法上は、法人にとつてみれば、少なくとも、臨時的な給与としての利益処分たる役員賞与(法人税法第三五条第四項)の支給となるが、或いは、法律上は、法人が右役員に対し損害賠償請求権を取得するにとどまる筈である。しかして、それらが役員報酬の支給とならないことは既に述べたとおりである。

以上のとおりであるから、本件は、認定役員貸付利息が発生しない以上、右の存在を前提とする同額の認定役員報酬も認めることはできない。

従つて昭和四九年七月期につき、認定役員貸付利息及び認定役員報酬各二、〇六六、六六〇円、昭和五〇年七月期につき、同じく各五、九六四、三七〇円については、いずれも認めないこととした。

(法令の適用)

被告会社につき

いずれも法人税法一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項。

被告人につき

いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)。同法二五条一項。

よつて、主文のとおり判決する。

(松澤智)

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